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Part 8 HX型運指誕生

 

 H型運指を使っていて結構いい調子だったのですが、短い標準G管だけでは色んな調の曲を原調のまま吹くことができないと思い始めました。

 

 やはり最終的には篠笛のように全ての調を揃えたいと思ってはいたのですが、そう簡単に作れるものではないので多くの管楽器で使われている調であるC管、E♭管あたりから開発することにしました。

 

 手始めに一番わかりやすいマウイ・ザフーンやリコーダーと同じC管から試作してみましたが、ななかピッチが合いませんでした。1オクターブなら簡単なのだが2オクターブとなると前述のとおり3倍音系の楽器だけに格段にバランスを取るのが難しくなるのです。色々試行錯誤したがどうしてもうまくいきませんでした。ピッチベンドは得意な楽器なので、ある程度演奏技術でカバーできるのですが、初心者ではとても使いこなせないでしょう。

 

 なかなか解決策が見つからなかったのですが、ピッチの特性をもう一度じっくり検証して気付いたのです。H型運指の特性は短い管だとアンブッシュアの微妙な調整で解決できてしまうのでそれ程問題にならないのですが、長い管だと不都合な特性が顕著に出てくるのです。

 

 H型運指では長い管に対応できないとわかり、一時は長い管は開発を断念しようかとも思いました。

 

 ですが、それでは演奏できる調が限られてしまいます。あらゆる調の曲を吹けるようにしなければ楽器としての面白さが半減してしまう、何としても短い管から長い管まで対応できる運指を開発しなければという思いに駆られて、また新しい運指の開発にとりかかりました。しかし、どうしたらいいのかしばらくはまったくわかりませんでした。

 

 それじゃすぐにやれることからやってみようと思い付いたのがH型運指とX型運指のいいところを合成するという考えでした。H型運指の目玉であるオクターブの切り替えは諦めるものの、その運指のイメージを残して低い「ミ」からオクターブ上の「ミ」に切り替えるところを「ミのフラット」に切り替わるように半音分ずらしてみました。すると、うまい具合に「ファ#」あたりの運指がX型運指に近い感じになったのです。

 

 ちょっとした思い付きで、二つの運指の合成に成功し、長い管でもだいぶ不都合な特性が出にくくなったのです。言葉ではわからないと思いますが、こんな感じで色々思考錯誤して運指の改良を続けた結果、現在採用しているHX型運指が誕生したのです。

 

 もうおわかりでしょうが、H型運指とX型運指を合成した運指なので単純にHX型運指と命名したわけです。HX型運指のおかげで、やっと満足できるヒチリコが作れるようになりました。

 

こうして何種類か長さの違うヒチリコがラインナップされることになったのです。

 

 ヒチリコ開発はこうして現在に至っていますが、これで開発が終ったわけではありません。指穴の微妙な位置関係を随時見直して、さらにピッチの精度が上がっていますし、スタンダードモデルは材料を黒竹(くろちく)に変更しヒチリコVer.2となりました。

 

 今後、ネイティブアメリカン・フルート音階の癒し系ヒチリコやプチ量産品の木製ヒチリコの開発、完璧なピッチバランスを持つプロモデルの開発、完全な量産品の開発、さらに個人的な目標として15cmほどしかない超短いC管で2オクターブを実現するという難しい課題をクリアしたいと思っています。

 

 まだまだやらなければならないことがありますから、これからもヒチリコ開発という挑戦は続いていくのです。

 

つづく

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